八木 寿和さん

八木 寿和さん

これまでの業務経験(キャリア)

私は、昭和最後の昭和63年4月に入社し、 浜岡総括事業所(現:浜岡原子力本部)の機械第1課(現:機械部 原子炉保全課)に配属されました。 業務は原子炉関係設備の保守点検の監督補助から始まりました。私は機械工学が専攻であり、原子力に関する知識は、しくみを知っている程度でした。 点検する機器は一般的なポンプや弁であり、原子力特有の機器は一部の物に限られました。 入社して3年間ぐらいは、先輩や現場のベテラン作業員の方々に聞いて、点検作業の流れや機器の知識を学びました。

配属されて2年後の平成2年から2年半に亘り浜岡4号機の建設工事のため、中部電力に研修出向しました。 原子力発電所のできる過程を学び、機器や配管の設置方法や検査、官庁検査対応などを管理者の側から経験できました。 今後、原子力発電所の建設が難しい情勢であることから貴重な時間を過ごしたと思います。 特に原子炉圧力容器を御前崎港から発電所まで陸上輸送し、据付に立ち会えたことをよく覚えています。

それから6年後再び2年間、中部電力の原子炉関係保修部門へ管理者として研修出向しました。 この時は、1号機のサプレッションチェンバ(圧力抑制室と呼ばれ、約3,000tの水を保有するドーナツ状の容器) の内面塗装の作業管理を主に実施しました。 この経験が3号機の同種工事を当社で実施する際に助力になりました。

その後、現場監督として戻ってからは、主蒸気隔離弁と呼ばれる大型弁の点検や原子炉圧力容器の上蓋開放・復旧作業を担当しました。 当時は、定期点検の工期を短縮するため24時間の交替作業が頻繁にあり、徹夜の勤務や緊急で呼び出された記憶があります。 主にこの2つの作業については、5年以上経験したことで号機毎の特異性などを熟知し、客先からの信頼も築けたことで、大いにやりがいもありました。 今でも、問い合わせが来ることがあります。

現在は、自分たちが点検し、愛着のある1,2号機を解体撤去する廃止措置に携わっています。

現在携わっている分野や職種

現在、携わっている浜岡1,2号機の廃止措置は、原子力発電所を解体撤去し更地に戻す仕事で、 その際に発生する撤去品の廃棄物は放射能レベルにより分類されて再利用や地中埋設で処分されます。 現地ではこれから放射線管理区域内の機器の解体撤去を始める段階になり、廃止措置完了まで20年から30年かかる予定です。 その解体をメンテナンスで培った現場管理の経験を発揮し、当社が地元協力会社とともに実施するため、営業活動に取り組んでいます。

当社は、解体撤去が本格化する時期を見据えて廃止措置管理グループから廃止措置計画課、 廃止措置工事課からなる廃止措置部へと体制を整えました。私は、その廃止措置工事課の課長として、 1,2号機の解体撤去や維持点検の現場施工管理を担っています。

廃止措置は、分解・除染・切断・細断・保管・処分と段階を踏みます。 各作業は一般技術の組み合わせで対応可能で、『安全』『汚染拡大防止・被ばく低減』『火災防止』に配慮し実施します。 長期に及ぶ廃止措置では、工程管理やエリア管理・要員調整などを考慮した総括的な運用が大切であり、 安全かつ低コストを意識した計画をするために実績をフィードバックし取り組んでいきます。

廃止措置は、建設の逆で設備が増えていくのではなく、設備がなくなっていくことで現場が変化し、 進捗が見える点で達成感が感じられる仕事です。また多くの種類の設備を分解・解体することで機器の構造など知見の向上を図れます。 また解体工事では、設備を撤去していく環境の変化をイメージして危険個所を想定できることや 機械設備・電気設備・計測設備の機種にとらわれず解体処理をする管理能力が必要です。

今後、国内で廃止措置を迎えるプラントが増える中で、廃止措置の計画から施工までを運営する経験をもとに、 浜岡以外の他プラントの廃止措置においても同業他社に売り込んでいくチャンスとなります。

現在の仕事の魅力

浜岡原子力発電所の廃止措置は、本格的な商業炉用発電所(軽水炉)では国内初となります。 したがって浜岡1,2号機の廃止措置をいかに安全かつ合理的・経済的に解体作業を計画し、実践していくことが使命です。 またこれが国内の廃止措置のベースになっていきます。 いまでも廃止措置への当社の取り組みに対して興味を持っている同業他社から情報交換の要望がくるようなやりがいのある業務です。

一般的に建物や火力発電所の解体工事は、大型の重機で壊し、撤去物は処分場にもっていけば完了しますが、 原子力発電所の解体工事は放射能の影響により工事を複雑にします。 解体は、ひとつひとつの機器などの設備を丁寧に分解や切断し、表面に付着している放射能を除去し(除染)、放射線の測定を行い、箱詰めします。

リサイクル可能な金属は、溶かして再利用できるよう仕分けます。 再利用できない廃棄物は、放射能レベル毎に分類して、地中埋設となります。 現段階では埋める場所(処分場)は決まっていませんが、私たちの仕事は、この箱詰めまでとなります。

解体撤去や廃棄物、放射能と聞くとネガティブなイメージを持たれると思いますが、放射能の被ばくも心配ありません。 廃止措置業務は、発電所を作っていく建設工事とは逆の設備がなくなっていく作業になりますが、プラントの構成や機器の構造を学ぶ機会であり、 よく子供が興味本位で物を分解して構造を知ることと同じで、皆さんにも経験があると思います

すべての解体工事を終えるには、30年以上の長い期間を要します。 解体工事は、一般技術の組み合わせで行いますが、解体期間中にも世の中の技術も進歩し、その技術を取り入れながら既成概念にとらわれないことが大切です。 また廃止措置は、将来運転を終了する3~5号機もその時期を迎えて、続いていきます。

廃止措置は、世代を超えて達成し、繋いでいくことが必要です。 そのためにも次の世代を担ってくれる若者が出てくることを期待しています。